ハード・ロハス

スロウライフ・スピードスタイル

娘の初フライフィッシング

 早朝。東京高尾の浅川国際マス釣り場に練習。
 前情報ではルアーで1日30尾釣れればそうとうの腕前、通常は数尾から十数尾。
 型は小型でニジマスがほとんど。放流後はヤマメもいるが、なかなか釣れないとのこと。
 山あいの渓流沿いにある小さな池。水質も良く、空気もいいので雰囲気は悪くない。
 朝7時のオープン時間に入ると、釣り人は僕だけ。
 ルアーを数投するが噂通り食いが渋い。フライに変えてマラブーを送り込むも、ノリは今ひとつ。ぽつぽつと6尾釣り、カディスに変えると反応なし。やっと1尾釣り、エッグに交換したところ爆発。一投一尾。あっという間に30尾達成。
 全部小型のニジマスだったので食べるにはいいが、釣りに変化がない。人も増えてきたので、7時40分、制限枠の5尾だけ持ち帰りにして釣り場をあとにした。
 午前9時に入間市の実家に着き、ショートステイしていた娘を引き取る。朝食としてマス5尾をみんなで食った。臭みもなく、かなり好評だった。特にワイフと義父のふたりが箸をのばしていた。
 娘もフライをしたいというので、帰りに開成フォレストで夕方2時間コースで釣行。
 人がかなり多く、みんな「釣れないね〜」と言いあっていたので、今日はキャスティングの練習に徹すればいいやと割り切る。
 娘は自分で投げたいというので、まあやってみろやとほっておいたら、どこで見覚えたのか、一丁前にぶるんぶるんとループをつくって、投げている。あっけにとられて見ていると、そのまま竿がぶんとしなった。
「き、きたー!」
「まじかいな」
 ある程度投げれるようになってからちゃんとしたフライをつければいいかと思っていたので、よれよれにくたびれた上州屋100円フライのままであった。最初の一尾、貴重な一尾も無事ランディングにも成功し、娘の初フライ成功。
 しかし間をおかず2尾目。しかも黒い40センチ越えレインボー。
 このあともファイト中にバレてしまうものの、入れれば食ってくる状態。周囲のフライフィッシャーたちも唖然、「あの子ども、すげー」と声がもれた。
 次第に僕のマラブーにもアタリが出はじめ、ふたりで交互に釣りあげる。
「なんか釣れてるの、うちらだけじゃない?」と娘。声を小さくしろ、ビギナーズラックだ。
 やがて隣のフライマンも爆釣しはじめ、「正直、ほっとしたよ」と笑いながら仲間に言っている。すぐ隣で、ろくにキャスティングもできない親子だけが釣れていたので内心は焦っていたようだ。
 彼が釣れはじめると、おもしろいことに僕のアタリがぴたりと止まった。
 娘はもう釣りに飽きて、草をむしったり、網で石ころをすくったりして遊んでいる。
 僕はやっと大物1尾と、ブラウン1尾、イワナ1尾を含む7尾。娘は大物2尾を含む6尾。
 終了時刻5分前に、ふたりで最後に1尾ずつがんばろう、と言ってキャスト。娘の竿がぶんっとしなった。でかい。今日一番の大物か? おおーっと叫んでいると、僕にもごぼっと来た。リールがギャーっと叫んでラインが出て行く。ふたりで励ましあいながら、じっくり戦う。娘は腕が痛いと言って、すぐに竿が下がりはじめる。竿を上げろと激を飛ばす僕も腕が痛い。
「おとーさん、どうしたらいい?」
「自分でなんとかしろ」
 5分ほどで彼女は独力で無事、ランディング。ひとめで40オーバーと分かるレインボー。
 しかし困った。網はひとつしかない。僕の方の獲物はまだ糸を引っぱりつづけている。信じられないタフさだ。いまだ姿さえ一度も見えない。ときおり水面がもわっと盛り上がって背びれが見える。未体験の感触。もしやほんとのほんとにイトウか?
「おとーさん、ハリはずせない」
「こっちも網がないと困る。なんとか自分ではずせ」
 ペンチを投げてやる。ちょっと時間がかかっていたようだが、無事、ハリをはずせたようだ。
 時計を見る。終了時刻が過ぎて、5時7分。すでに10分以上格闘していた。
 娘の助けを借りてランディングしたのは、残念ながらイトウではなく、銀色の魚体が美しい51センチのサクラマスだった。