ハード・ロハス

スロウライフ・スピードスタイル

あ、おとーさん! これが聞きたくて

 学校が徹底的に苦手な私は、娘の入学式をはじめ、運動会やその他行事にはまったく顔を出していない。
 しかしながら、学校の外に出る行事については、目下、皆勤である。
 今日は娘が石垣山に遠足。
 石垣山といえば私が日々、チャリで登坂をしているホームグラウンドである。先週あたりから連日、子どもの軍団とすれ違い、多くの熱い声援をいただいた。じつは娘の小学校の他の学年だったようである。(学年ごとに日をずらして遠足しているらしい)
 朝早くにラン11キロ、スウィム2キロを終え、仕事を片づけた。
 昼休み。いよいよ遠足乱入本番である。この日のために鍛練してきたといっても過言ではない。
 片道2km標高200mの石垣山を3往復ばかりすれば、いずれかのタイミングで下山してくる小学生軍団とすれ違うことができるはずである。
 しかし。佐渡210km以来、右膝に軽い故障を感じていたが、いつすれ違ってもいいようにカッコつけて立ち漕ぎしていたところ、ぴきっ!
 右膝激痛、まったく踏めなくなった。この日のために戦ってきた私は何だったのか。
 左足だけで斜度13%をよたよた進む。カッコ悪すぎる・・。今にも側溝に落ちそうではないか。
 そのとき小さな脇道が目に入った。チャリを引っぱり上げ、身をひそめた。
 待つこと10分。わあわあとガキ集団の声が聞こえてきた。平日の昼間に、派手なチャリレーサーとサングラスというイデタチで石垣山の茂みに隠れている私はいったい何者なのか? そんな疑問について深く考える間もなく、狭い急勾配の坂を道幅いっぱいの奔流となって子どもたちが駆け降りてきた。他の学年はちゃんと端を一列に歩いていたというのに、さすが悪餓鬼盛りの3年生。
 これまでのパターンでは娘は毎度、一番後ろを仲間としらっと歩いている。今回も然り。じっくりとやり過ごす。焦らず待つ。もう上り直すだけの足は残っていない。
 小学生一団はじゅうぶんに遠ざかった。しんがりの先生も確認した。これより後ろにつづく小学生はいないはずだ。
 すわ、茂みよりオルベア・チャリレーサー出撃。
 下り坂をいっきに駆け降りる。あっという間に一団が近づく。
 ごーっという音が聞こえたのか、最初に赤いリュックを背負ったわが娘が振り返った。
「あ、おとーさん・・」
 娘と目があった一瞬ののち、私はつむじ風のように通りすぎた。
「だれだれー、あのひと」「なんで知ってんのー」という子どもたちの声が背後から追いかけてくる。
 疾走しながら私は、ここしばらく味わったことのない充足感にうち震えていた。
 シャイな学校嫌いである私のささやかな行事参加。今後もまた、娘の林間学校でなぜか東北地方をチャリで通りかかり、はたまた修学旅行でも、なぜか連日、京都ですれ違う。そのたびに娘は言うのだ。
「あ、おとーさん・・」