ハード・ロハス

スロウライフ・スピードスタイル

初挑戦の料理2品

 だいたいにおいて私はヘヴィローテーションである。
 居酒屋もカレー屋も、納豆の銘柄、使う道具のメーカーからキャバレエまで、同じところ同じものばかり使いつづける。開発ということをしない。
 マーケティング用語では顧客ロイヤリティが高いというそうだが、私の場合はロイヤリティなんてものじゃなくて、もはや忠臣蔵である。
 わが一家の食卓にしても例外ではなく、週末以外は外食もしないし、惣菜・弁当のたぐいも好きではないので、ほとんど毎日、家族の食事を私がつくっているが、たいがいはお気に入り定番メニューのヘヴィローテーションである。ものすごくヘヴィなローテーションである。
 わが一家のメニューの定番殿堂入りするためには、まことに厳しい審査があり、合格するのは二年に一品ぐらい。直近の事例をみわたすと、2004年にパエリア(スペイン出身)が合格したきりである。
 それが何が起こったのか、この1週間で2つも新しい料理にチャレンジすることになった。
 仕事が極端に忙しかったせいかもしれない。缶詰め状態でパソコンの前にすわっていると、一日の中で唯一、食材の買い出しと調理が精神の調和を与えてくれる。
 なぜか、とつぜん「しいたけとれんこんのはさみ揚げ」がつくりたくなった。さっそくレシピを入手し、つくってみた。
 これが思ったよりも手間であった。鳥の挽肉をつかったのは、はじめてのことで興味深かったが、レシピを遵守したら、しいたけ代だけで800円にもなり、ひきつった。料理としては家族の好評を得たが、しいたけだけで800円もするようなら ヘヴィローテーションな定番化は遠い。
 そしてまた、なぜかとつぜん「もつ煮込み」がつくりたくなった。さっそくレシピを入手し、つくってみた。
 たかが居酒屋メニューとなめてかかったら、猛烈に手間と時間がかかって驚いた。だいたい、はじめて買ったシロモツはうんこみたいな匂いがする。豚の大腸とは知らなかった。内側のひだひだはジュウトッキか? いやそれがあるのは小腸だろう。ではこれは、白化したうんこか? 疑心暗鬼になりながら包丁で突っつく。マジくせえ。
 下ゆでに生姜と酒とネギの青い部分を入れるが、うんこの匂いは抜けない。ほんとに食えるのか? 焦燥で汗が頤(おとがい)を伝う。
 味つけは、みりんに醤油に塩・砂糖に赤味噌、酒、昆布だし、カツオだし(これら、ほんとにレシピ通り)。こんなんで味が混乱しないか、いや、うんこの匂いを消すために緻密に計算されているのかも。忠実にレシピを遵守す。
 ほとんどは何かを煮込んでいる時間とはいえ、3時間近くかかってようやく完成した、ただのもつ煮込み。
 食ってみたら、やはり、ただのもつ煮込み。
 うんこの匂いは消滅ではなく、微妙に昇華して、よく知っている「ただのもつ煮込み」の匂いになっていた。
 そうか、ただのもつ煮込みって、たいへんなことなんだ。