ハード・ロハス

スロウライフ・スピードスタイル

煙草を切らしてはならぬ(八尾トライアスロンレポート終章)


 チャリでしっかり抑えて走ったのがよかったのか、体が軽い。あきらかに大島とは違う。あのときは、ランが完全なネックで足を引っぱった。今回は月間450キロのランニングを踏んで、水虫と血豆とクツズレ、そして、いぼぢ、という厳しい代償を払ってのぞんだ。
 尻の穴のテーピングに違和感があったが、飛ぶようにカッコつけて川沿いのランコースへと繰りだす。が、調子にのって、またルートを間違えた。
 川沿いの1.2キロの周回路を4周。終始、練習どおりに走れと自分に言い聞かせる。調子がよくて、ついオーバーペースになりがちである。
 2周回目にひとりに抜かれた。が、彼がいいペースぺーカーになってくれた。3周回目にいったん引き離されたが、最周回に抑えていたたずなを解き放つや、みるみる近づいて抜き返した。



 フィニッシュロードは赤い絨毯がひいてあって、雨ももはや心地よかった。
 ゴールテープを切った瞬間、くるっと後ろを向いてお辞儀。これは大島で慶応大学の学生がやっていて、チョーカッコよかったと妻子が言っていたのを聞いて真似したら、すごくウケた。
 そのまま止まらず、タッタカ、タッタカ走って、会場の町民広場をぐるっと半周。これは大島で優勝したアライさんがやっていて、妻子がチョーカッコよかったと言っていたのを聞いて真似した。
 広場をそのまましばし走っていようと思ったら、炊き出しテントのボランティアのおばちゃんたちのすごい注目を浴びていて恥ずかしく、テントの前に立ち止まって深く一礼をしたら、きゃーっと黄色い歓声があがって、びっくりした。おばちゃんたちも、こんな黄色い声がでるんだ、と、ちょっとヨン様。
 3着で入ったが、スタートが第二ウェーブで5分遅れだったので、結果はひとつ繰り上がって2位だった。
 けっきょくリサを発見することができなかったが、知らないうちに抜いていたらしい。彼女を追っかけていて好結果がころがりこんできたようなものだ。表彰式で分かったが、リサは女性の部で1位。ついでに、あの私をさんざんひっぱたいた黄色い帽子の大女はリサについで2位だった。(昨年の優勝者でもあったそうだ)


 まもなくワイフの方の一般の部のスタートだったので、応援に行った。




 初トライアスロンの彼女も、雨の中を無事完走。ますます熱が入ってきたようで、先行きが怖い。
 煙草を朝から切らしていて、ワイフに自動販売機を探しに行ってもらうが、ない。表彰式の時間が近づいていたが、ガマンできず、ランニングで八尾の商店街へ。2kmほど走ったが、いっこうに煙草がない。そういえば、昨晩の健康センターにもなかった。八尾は町をあげて煙草を締め出しているのか、と疑念さえ。
 煙草、煙草、と、半狂乱でランニング。歩いていたおばちゃんに聞くと、駅に行けば2軒煙草を売っている店があるとのこと。
「歩きだと、15分ぐらいかかるよ」
「ひえー。15分ですかぁ」
 もう時間がない。泣く泣く会場に戻った。なりふりかまわず誰かに煙草をめぐんでもらおうとさえ思ったが、雨のせいか、商店街だというのに誰も歩いていない。



 表彰式を終えると午後3時近くになっていた。雨も小降りになっていた。
 帰途、まず見つけたコンビニで煙草を買い、たてつづけに4本吸った。ああ極楽。これからはトライアスロンのときは、煙草を多めに買っておくようにしよう。
 一般道で高山や下呂温泉を経由して浜松まで走った。高山も下呂も、温泉に入るとか、飛騨牛を食うとかせずに、ただ通っただけ、見ただけ。険しい山岳路でもワイフの運転が好調だったので、クルマの後部座席で賞品でもらった地酒2本をあけた。
 午後10時。浜松ではオートバイ時代はよく利用したハッピー愛ランド浜松健康センターに到着。結婚する前のワイフともツーリングで寄ったことがある。霧の深い夜で、深夜料金のかかる午前1時前に施設を出て、東名高速を千葉まで帰った。ワイフがVFR400。この旅のレポートは確か、今はなきレディスバイク誌に掲載されたはずだ。
 この思い出深い健康センターも、今見ると老朽化と設備の貧弱さが目についた。昔は輝かしい宮殿のように思えたものだった。ワイフも同じ気持ちだったらしい。ここも、この夏いっぱいで営業をやめてしまうらしく、言葉に表せないほど残念である。
 やはりこの日も、深夜料金のかかる午前1時前に施設を出て、真夜中の東名をひた走った。
(おわり)