ハード・ロハス

スロウライフ・スピードスタイル

これからはギブアップの精神だ

 トリノも終盤。早朝、荒川静香の演技をライブで見たが、はじまる直前の様子は妖気ただようというか迫真、イケる感じがした。
 トリノ五輪の最大の置き土産といえば、カーリングとスノボクロスだろう。どちらもビジュアルで魅せた。
 特にカーリングのメディア露出度の高さはきわだっていた。総あたり戦だから負けても勝っても、えらく長い時間テレビに映る。数十秒のスピードスケート、十数秒のスキージャンプがかわいそう。
 リュージュなんてひどいものだ。スタートの瞬間にしゅっ、時速120キロで通過する瞬間にしゅっ、ゴールの瞬間にしゅしゅしゅっと、ここでやっと顔が出る。そりに縛りつけられて何か趣味の悪い罰ゲームみたいな悲哀もあって、おまけに二人乗りリュージュ(写真)に至っては、下の人、ぜんぜん見えないではないか!! 重くないのか? こわくないのか? 疑問を感じることはないのか?? あなたのオリンピックとは何だったのか???
 カーリングに話をもどす。
 強豪エゲレスを撃破した熱もあったが、最後の方の試合では実況アナウンサーもウガーと絶叫しているのを見て、近い未来、カーリングも絶叫ウェーブスポーツに仲間入りする予感もあり感慨深い。
 北海道常呂町出身のチームメンバーのビジュアルのよさも大きかった。ツーリングに行くと実感するが、実際、オホーツクは美男美女が多い。ゴーグルやヘルメットもないから顔がもろ出し、声ももろ出しである。方言まるだしの作戦会議が微笑ましく、カーリングファンの増加に貢献したのではないかと思う。
 対してスケルトン。足から落ちるリュージュに対して、頭から突っ込む。ここまでイヨギヨくなると罰ゲームの悲哀よりも、好き好んでやっている変態っぽさの方が強い。鉄仮面に顔が覆われ、他人の安易な感情移入を拒む。安っぽい一体感なんてイラネーと暗に訴えている。
 仮面の中の表情をマイクロカメラでライブ放映できるかどうかが、スケルトン振興のカギを握るであろう。
 話をカーリングにもどす。
 今回のカーリングの全試合を通じて、なんといっても、さわやかな風を呼んだのは最終戦での「ギブアップ」であろう。
 絶望的な曲面。司令塔オノデラは短かい視線でチームメイトの目にさっと何かを流し込んだ。チームの意思はかたまった。すっと敵手に握手を求める司令塔オノデラ。一瞬意味を介しかね、あわててグローブをはずすライバル。握手する司令塔オノデラの笑顔。
 国境を越え、敵味方を越えて、美しい瞬間であった。スポルトマンシップ。素晴らしきギブアップ。司令塔オノデラ。