ハード・ロハス

スロウライフ・スピードスタイル

晴走雨黙(せいそううもく)

 小田原に移住してからというもの、日々、精神肉体が原始へと退行しているのを強く感じる。
 晴れた日などは肉体が激しく躍動を渇望し、いても立ってもいられずチャリを引き出して登坂。何をやっても、どこへ行っても、うきうきと浮き足だち、太陽が没しても快活な気分はおさまらず、エーゲ海風の創作料理に火柱を上げて夕餉をいろどり、眠っている妻子のほっぺたに惜しみない接吻の驟雨を降らせて嫌がられたり、もうノンストップ・オペレーション。そして、ことっと気絶するように寝入り、窓から差し込む朝日にさわやかな目覚め。
 しかしこれが天気が悪いと、一転して極度に鬱屈し、黙々とデスクワークと思索のスパイラルに陥る。ただ、いいアイデアが浮かび、閉塞していた物事が大きく動きだすのは、きまってこういったときなのも事実である。
 この両極を行き来する振り子のような生活が、ちょうど寒流と暖流がぶつかって豊饒をもたらす潮目のように、精神肉体の充実と高い生産性を維持している。晴走雨黙(せいそううもく)の理想的生活だ。
 ところが、ここのところ連日、不安定な空模様がつづいているせいでひどいことになっている。日中は労務、娘が学校から帰ってからは育児家事、外出といえばせいぜい買い物マラソンと2kmのスウィム、あとはインプレッサで仕事帰りのワイフを駅まで迎えに行くぐらい。鬱屈のあまり、食欲は減退し、夜も眠れず悶々と思索の連夜。
 早く秋晴れがもどってくれないことには、たいへん厳しい状況である。夜は眠ろうと思っても、悶々、黙々。もはや自分で制御がきかぬほどに天気に支配されている。
 ぱたぱたぱた。今日も、朝刊が届いた。もはや恐怖新聞である。しかも台風最接近とある。ううぅ。