家族は外食では筆頭、吉野屋が大好きである。
妻もまだ10代の若い女だったころ、2回目か3回目だかのデートで「何を食べたい?」と訊いたら、「吉野屋に行きたい」と
言うので驚いた。なんでもそのときは、吉野屋に行ったことがなかったそうである。(あと、「カップラーメンが食べてみたい」というのもあった)
そのころの幸福な記憶からか、今でも好きなようである。さらにその幸福な遺伝子を引き継いだのか、娘にいたっては「おなかいっぱいでも行きたい」ほどの吉野屋好きで、おなかいっぱいで行ってもしかたないではないかと訊ねると、「店に入るだけで幸せな気分になる」のだそうから、その熱愛ぶりは尋常ではない。
僕にとっては、吉野屋の牛丼は突っ込みどころがたくさんありすぎて、それはコストから考えるとしかたないのだが、どう考えてもうちでつくる牛丼の方がうまいだろうと思うのだが、家族は吉野屋の方が好きなようである。
それはそれで主夫にとっては、くやしいものである。
なんとか家族に吉野屋よりうまいと言わしめてやりたい。が、焦ってはいけない。まずは吉野屋の牛丼を知るべきである。サケを痛飲したあと、深夜でも、つい行きたくなる「しつこくない味」に秘密があるように思う。
ポイントは「つゆ」にあるように思った。
うちでつくる牛丼のたれは濃厚で、どちらかと言うとすきやきの「たれ」風である。対して吉野屋のは「たれ」でなく「つゆ」だ。
麺つゆに近いが、うどんのつゆよりは濃く、そばのつゆよりは薄い。
味も甘すぎず、しょっぱすぎず・・真似してみようと思うと、けっこう難しい。
そうだ、きっとこんなことは誰かしら同じことを考えるはずで、インターネットで「吉野屋」「つゆ」「レシピ」の三語で検索をかけると、出てきた出てきた!
吉野屋風の牛丼
→http://cookpad.com/taka_jam/recipe/195791/
かなりの人気レシピだそうだ。やはり「おうちで吉野屋」フリークは予想以上に多いらしい。
感心したのは、濃口しょうゆと薄口しょうゆをブレンドすること。濃口はヒゲタ、薄口はヒガシマルでつくると、吉野屋にいっそう近づくとか・・さらに調べてみると、より吉野屋の忠実な再現を試みようとするならば、甘めの白ワインやアップルジュース、カラメルなどもブレンドしていかねばならないそうだ。
驚くべきことに、これらの材料をそろえていくと、吉野屋で食うよりコスト高になってしまう・・こうなってくると、もはや主夫のこだわりをとって自作するか、実利をとって吉野屋に連れて行くべきか、おのれの人生哲学が試される事態となったのである。