ハード・ロハス

スロウライフ・スピードスタイル

最大のレヂャー

 わが家の最大かつ最高ランクのレヂャーといえば、まちがいなくアレに行くことである。
 アレ、と言ったのは、その名を呼ぶことさえもが、わが家にとってはあまりにオソレ多いからであって、みだりにその名を使用すると何だか天罰が当たりそうな気がするからである。
 今日は娘の小学校1年の最後の日。そして驚くべきことに、学校嫌いの娘は1年間を通して皆勤賞を獲得した。思えば、両親そろってインフルエンザになった中をひとりたくましく生き抜き、日曜日の夜になるたびに翌日からの学校を思って暗くなっているところを「学校なんて、やめちゃっていっしょに遊ぼうぜ」とささやく父の誘惑を振り払っての皆勤賞である。
 史上最年少登校拒否記録をつくってほしいと願う父の思惑をよそに、娘はクラスでただ一人のリアル皆勤賞受賞者になったのだから、世の中不思議なものである。(リアル皆勤賞とは、インフルエンザによる繰り上げ合格を除外した、マゴウカタナキ皆勤賞のことである。じつは一般に皆勤賞と呼ばれているものにはインフルエンザによる欠席は認められている。おそらく皆勤賞狙いの善良なる少年少女らがインフルエンザに罹患した場合、皆勤賞ほしさのためにこれを隠匿して無理に登校し、被害が拡大するのを防ぐ学校側の配慮によるものと推測する)
 さて、そんなわけで娘の皆勤賞を祝うことになった。小学校の正門前に集合した、父と母と娘。これから3人の家族はアレに行くことになる。しかもタクシーで。なんたるゴージャス。娘はまだアレに行くことを知らない。知ったらたいへんだ。もう何も手につかなくなってしまう。僕はタクシーの運転手さんに、おごそかに宣言した。
「健康センターにおもむいていただきたい」
 その瞬間の娘と細君の狂気の顔。まるで1億円宝くじ券を拾ったかのように、アンアーンビリバボ! アレよ、アレ!といった感じで言葉もでてこぬ様相。
 じつは以前は1ケ月に一回ぐらいは、何かと娘へのご褒美と称して健康センターに行くことはあった。しかし、だんだん娘が成長してくると、男風呂ですっぽんぽんではしゃぐ姿が妙に場の中で浮いてしまうようになったこともあって、しぜんと足が遠のいていった。そして、いつしかわが家でオソレ多いレヂャーになってきたのだ。
 皆勤賞の今日ぐらいは、と思ったとき、おそらくこれは娘と健康センターで男風呂に入る人生最後の機会ではないかと思った。黄色い児童の帽子、ランドセルにつけた黄色いカバーも今日が最後。そう思うと、なんだかせつなくなってしまい、露天の入浴剤草津の湯のなかで泣いてしまった俺は、じつに男親なのであった。みゅう。